今年、北海道は例年にはない梅雨空が続いていたという。
しかし、幸いにも我々が出かけた数日間はすかっと晴れた日が続いた訳ではないが、利尻富士の山並みをしっかり見ることができる瞬間もあったようだ。
我が盲導犬「おっくん」も、出発日の数日前から便が緩み、欠食させることから徐々にフードを増やしている時で、当日を迎えるまで一緒に行けるかどうか便の塊具合を見ながらの様子見であった。
それでも、療養食を与えていることもあって、ころころした便を出して、フードの量は日ごろからみるとまだ少な目ではあるが、動きは変わらず、体重もさほど減ったふうでもなし、何よりも外出を喜ぶこともあって、一緒に出掛けることにした。
先代のユニスは、北は北海道から南は石垣島まで全国をあちこち出かけていたが、おっくんは、飛行機も船も初めてである。
早朝4時過ぎにフードを与え、5時過ぎにはタクシーに乗り、リムジンバスに乗り換えて、伊丹から8時には羽田行きの飛行機に乗っていた。
いざ離陸するときに、どんな顔をするかと思っていたが、「ん?おや!」とちょっと頭をもたげかけたが、特に変わった様子もなく、羽田へ到着。
ここで、空港内の車いす用トイレの中で、おっくんの胴体にまき付けたベルトに袋を付けて、その中におしっこをさせてすっきりしたところで稚内行きの飛行機に乗り換える。
この飛行機は羽田行きよりはちょっと小さい。我々は一般客よりは一足先に乗車させてもらって、盲導犬がいることもあって、家人と二人だが3人用の座席を提供してもらっている。
一般客が全員乗り込むまで、客室乗務員の一人が私の手をとって、ヘッドフォンの扱い方などを教えてくれる。そして、「左前方と、こちらの右方向に避難通路があります」と説明してくれる。「11時方向と2時方向ですね。我々にはクロック表示で言ってもらえると分かりやすいですよ」と伝える。「なるほど、勉強になりました」と納得の様子。
しかし、こうして丁寧に案内してくれたのは行き帰り4回の内、このときだけである。
社内教育として見えない者に対する指導が成されているのかどうか?
稚内に降り立ったところで、今回担当の添乗員Tさん、盲導犬を見て「ユニスくんですか?」と、前の担当添乗員から話は聞いているようだ。「いいえ、ユニスは引退して新しい犬です」、「名前は何というのですか?」。この問いかけは同行のツアー客からも何度か発せられた。それに対して、「すみません、おっくんとしておいてください。皆さんが名前を呼んでくださると犬は気がそちらの方へいって仕事に集中できないことがありますので」と、一見あいそのないような返答を返すが、「なるほど!」と、その受け入れは抵抗のないものであった。
先代のユニスは、その名前を旅行中公表していて、それで特に問題を感じた訳ではないが、ツアー客それぞれが生活の場へ帰られたときに知り合いに盲導犬のことを話される時に、「盲導犬ユーザーは、なぜ犬の名前を教えたがらないのか?」を伝達してもらえたらという思いからである。