この催しに、私が関わっているユニーズ京都と京都ハーネスの会も参加している。
それぞれ、盲導犬啓発コーナーとアイマスク体験コーナーが隣り合わせ。
盲導犬コーナーにはハーネスの会会員の盲導犬が何頭か集まることを想定して我がユニス君は隣のアイマスク体験コーナーでダウンさせておくことにした。
アイマスク体験をする子供たちもけっこうおり、「楽しかった」という子も何人か。「今日は特別だよ」と、ユニスに触ってもらったりもした。
一方、盲導犬歩行を体験してもらうために、盲導犬協会のK職員が体験犬を連れて来て、その犬を盲導犬コーナーの部屋の机の下で休ませていた。
あっちの部屋・こっちの部屋と覗いている内にお昼になった。盲導犬コーナーの部屋でユーザーどうしで話していると、外から「食事にいきましょう!」と誘いの声。この人、ユニーズの前身の盲福研を一緒に立ち上げた人。何年かぶりの再会。おお!珍しい!「一緒に昼食も」と声かけしておいた。
「さあ行こう!」と足元の盲導犬のリードを持って廊下へ出る。
この日は、館内が込むというので廊下も階段も右側通行をするように言われている。盲導犬は通常左側を歩くのだが今日はやむを得ずハーネスを持たずにリードだけを持って犬を後ろから従えるようにして階段も降りる。
人混みを分けつつ模擬店会場へ。
ハーネスの会がやっているカレー現場にいくと家人も手伝っている。
カレーを食べ終わり、先の持ち場へ帰ろうと歩みだしたとき、K職員が私を探し当てて「大変です。連れて来た体験犬がいないんです!」 「えっ!誰かが連れだしたのかも。全館放送してもらったら」 「もう1回探してみます」。
持ち場である2Fに上がり、とにかくユニスの排泄をさせておこうとトイレへ入る。
このとき、トイレの入り口探しがいつもより手間取る。常であれば言わなくても入っていこうとするのだが、今日は3Fではないので構造からいえば一緒のはずだが、やはり常使っているのと違うと思っているのかもしれない。排尿させるための袋を出そうとハーネスバックのファスナーを開けようと思ってバッグに触れて見て驚いた。「あれ!これユニスに付けているハーネスと違う」。何処でハーネスを付け替えたのだろう?いや、そんなことをした覚えはない。ならば、この犬は!一瞬の間、狐に摘まれたような気分。そこで改めて犬に触ってみる。ユニスよりはちょっと小さいような気がする。見分けるのには尻尾。彼の尻尾は長い。ところが、この犬の尻尾は普通。
ここで初めて自分がやった失敗に気づいた。K職員が探している体験犬を連れ出したのは、何の事あろう自分なのだ。
時を同じくして、私が体験犬を連れて食事に行ったのではないかとの情報を得てK職員がかけよってきた。「良かったです、もし見付からなかったらどうなるかと!」と最悪のことまで考えがおよんだようだ。全く申し訳ないことをしたものだ。
それにしても、まずは条件反射とは恐ろしいもので、行動を開始するときに足元にいる盲導犬を一つの流れとして同行させている。手に持つリードの感触が特に異なっているものでなければ何の抵抗もない。
次に、この日の環境が要因となる。一つは、久しぶりに会った人との会話に気が入いっていて犬の方への集中力がなかったのかもしれない。また、ハーネスを持って左側通行をしていたら、常とは違う犬の行動に気づいたかもしれないが、右側通行をしていたことから誘導者に従って歩いていたことで、後ろから付いてくる犬の状態まで見極めることはできなかった。
そして、周囲の人の眼である。
カレーを食べに行ったときに、私の連れている犬がユニスでないことはコートの色合いで解っていたが、「今日は違った犬で歩く体験でもしているのかと思っていた」とは家人の後からの便である。後から考えればなるほど、ユニスであれば家人を見つけたら「ここにいたのか」と喜んで尻尾を振ったろう。そうした動きがなかった。
模擬店会場や上のトイレに入る所でも知り合いに何人も会っている。しかし、誰も私の横にはユニスがいるものと思っているし、犬そのものの存在もさほど気にしていないかもしれない。
なによりも、K職員が「困ったことができました」と私に耳打ちしたときも、横には、その体験犬が寄り添っていたのである。
条件反射とそのときの環境、そして、思いこみ。
そうした条件が相まって今回のようなひと騒動がおこるのである。
何れにせよ、K職員には寿命の縮む思いをさせてしまって申し訳なかった。
アイマスク体験コーナーの部屋に戻るとユニスが「遅かったなあ」と顔を寄せてきた。