松本発の美ヶ原高原行きのバスには我々夫婦とユニスだけが乗り込んだ。何と運転手は女性である。
最後尾の座席に陣取る。朝日が窓ガラスを通して飛び込んでくる。
途中から数名の乗客もあったが数えるほど。沿線半ばごろ山道にいよいよかかるころになると運転手がクーラーを切って暑ければちょっと窓を空けてくださいと言う。
上り坂にさしかかると寝そべっていたユニスの体がじわじわ後方へずっていく。これは帰りの道中も一緒でハーネスを引っ張っておいてやらないと前の方へずっていく。昨秋行った蔵王のバスも同じ感じだったがユニスの体がずれるような感覚はなかった。
1時間半かかってようやく終点。下車するとさすが風邪はひんやり感じる。
ここでユニスに袋を付けて大便を促す。思ったほどの量ではないが久しぶりの便をする。中身はトイレへ流せたが、ゴミ箱がないので袋は持ち帰らねばならない。
歩き出して程なく、道が二つに分かれている。右は車が通る道、左は山道のようだ。近くにいた人が山道で草花を見ながら「こちらの方がいろいろ見られて良いですよ」と声をかけてくれたので、「そうですか」と足をそちらの方へ向けた。
ところが100メートルもいかぬ間にそうそう簡単な道ではないことに気づいた。段差もまちまちで時には50センチほど上がらねばならない。ユニスと横並びには歩けずユニスの背中に手を当てながらそろりそろりと上がらねばならぬ所もある。
一昨年のクマの古道のことが頭をよぎった。こうして一定時間昇ることは何とかできるけれど、この道を戻らねばならぬとなると、とてもじゃない自信がない。
30分もすれば先ほど分かれ道にあった車道と合流するはずで、そこまで行けば車道で下って戻ることもできる。しかし、それはほんとうだろうか?
帰りのバスの時間は後2時間後、そして指定席を買っている電車はそのバスの到着時刻に会わせてある。とにかく前進あるのみ。
「何か塔のようなものが見えてきた」と聞いた時には半分安心した。誰も人影には会わない。道ばたの草花に目を投じる余裕はなく、口から出るのはぼやき言葉のみ。
その内、段差がなだらかになり一定ペースの幅となってきた。やれやれ助かった!の思いが広がる。車が通れるほどの道に出たとき無事帰途につけることを確証した。
王ヶ頭、2034メートルの山頂である。しかし、360度全て雲がかかり絶景の見晴らしはアウトである。
しばし休憩して曲がりくねった車道を降り出す。関係車両だけ通るでこぼこした地道であるが先の上り坂とは雲泥の差。
高原のゆったりした雰囲気を味わうというよりは登山道のような所を脱出できた安堵感のみを感じる一時となった。
初日こそ雨に降られたが全体的に天候の不安定な中、後の二日間雨に降られなかったのは幸だった。
ユニスも帰って来るとそれまでの疲れが嘘のように日常と同じ様子である。今回も家人・ユニスともどもお疲れさまでした。


