もう10数年前になる。ABCラジオ「おはようパーソナリティー道上洋三です」の中で、リスナーと北海道ツアーの企画があり、その募集をしていた。軽い気持ちで葉書を出したのだが、まさか!の当たり!受付担当の方へ「盲導犬ユーザーと見えている家人で行く」と告げた。千歳からは観光バス5台を連ねる大所帯のツアー。私の乗ったバスの乗客33人の一人ひとりには事前に、「盲導犬が一緒に乗車します」という知らせをおこなったという。これが、同伴者無で盲導犬ユーザーのみで参加する、となったらどうだったろうか?
ツアー3日間の内の1日。日高で乗馬体験ができる企画もあった。初挑戦である。パートナーのユニスは盲導犬になって初めての旅行。飛行機も長時間のバス移動も何ら問題はなかったが、馬を見たら興奮した。やむなくユニスを事務所で預ってもらうことにした。多少の不安と期待感を胸に、長い行列の後ろに並んだ。
順番がきた。馬の横には足台がおかれ、よいしょと、その台を踏んで馬にまたがる。馬はびくともしない。引き綱を引く人が「触ってみますか」と馬の首筋を触らせてくれる。大きさは全く違うが、その佇まいはわが盲導犬と同様、静かに人間を受け入れてくれている雰囲気が感じられ、「御願いします」と毛を撫でる。ぐるりと1周回って5分程度の短いものであったが、最後の方はだいぶ慣れてきて、「写真を撮ってられますよ」と下から声がかかったと同時に両手を上げてVサインをする余裕があった。
その後、京都でも乗馬体験の機会はあったが、残念ながら、日高で乗った馬のような大きさと凛々しさを感じるものではなかった。
東北旅行をしたときに、乗馬体験ができる所があると聞いて、3年前に出かけた。仙台駅から1時間、蔵王の麓にある宿舎。そこから20分くらいの所にある乗馬クラブから馬を連れて来てくれる。宿舎の敷地には30分程度散歩を楽しめる森がある。日高で体験しているので馬にまたがる分には不安はない。馬の構え・大きさも十分である。4頭目となった、わが盲導犬は馬を見ても何ら反応はしない。家人が盲導犬を連れて一緒に歩いても良いかと尋ねると「それは良いが、馬に蹴られないように前を歩いて」とさらっという。30分程度歩いて、そろそろ終わりですよ、と言われて、「少しかけ足してもらっても良いですか」と注文して50m程度走ってもらう。
その宿舎系列ホテルの貯まったポイントが3年で消えるということもあって、2週間前再度出かけてきた。不純な天候が関西ではずっと続き京都駅を出発するときは雨模様であったが、仙台へ降りると何日かぶりの陽光があって、まずはgood・good!宿舎の前で馬が着くのを待っていると数人の女性も待っている。家人に言わせれば「乗馬をする恰好をしている」と。車から数等の馬が降ろされる。私の乗る馬はアラブ系のリズという馬、馬の寿命は40歳くらいだそうだが、この馬は19歳。先の女性4人は乗馬クラブにも入っておられる人たちで引き綱なしで私の馬の後ろから並んで付いてくる。全体を監督しているクラブ職員から「止まって!」と声がかかる。引き綱を引いてくれているS氏が「後ろの1頭がおしっこをしていますよ」と状況説明をしてくれる。馬が急に止まった時はおおむね排泄だという。馬は背中に乗るというよりは鐙に足を突っ張るようにすれば良いとのこと。今回も最後の方少し走ってもらったが、今回は突っ張っていたこともあるのか、お尻がぽかぽかと浮いたり降りたりするような感じがした。
30分ちょっとで私は「ありがとう」とリズに別れを告げたが、女性4人は、これから乗馬レッスンをされるようだ。
1日おいて東北での旅行も最後の日となり、駅近くの手ごろな値段で食べられる米沢牛の店に入って昼食をとっていると、なんと乗馬をしていた女性たちも同じ店におられるではないか。「一緒に楽しませてもらいました」と声がかかる。
きっと、最初は「へえ、見えない人が乗馬をするの」という気持ちでおられたのかもしれないが、眼の前で大きな声で引き綱を引くS氏と気楽に話をしている姿をみて、直感的な印象とは違うものを感じられたのかもしれない。
手綱を使って「はい、どうどう」と盲導犬に指示するがごとく馬と走ってみたいものである。