前日の、宿舎、、部屋の中にあったユニットバスは、湯に浸かるのがやっとであった。それで、添乗員のTさんに「今日の宿舎の風呂は昨日と同じようなものでしょうかね」とさりげなく尋ねておいた。
Tさん、宿舎に問い合わせ、交渉してくれたのだろう「午後10時からだったら家族風呂を使ってもらっても良いということですが、どうですか?」と尋ねてくれる。常なら寝ている時間ではあるがお願いすることにする。
午後10時を待って風呂のある別棟へ向かった。早春を思わせる気温の上に強い風、持参したセーターを着込んでも身が縮む。
しかし、数人が入れる湯殿にゆったり手足を伸ばし、頭から足の先まで洗って、再び外気に触れたときは、心身ともほっかりと、行きの寒さは感じず、その夜は気持ちよく眠れた。
翌朝、朝食をとるために別棟へ向かった。ここではスリッパに履き換えねばならず、おっくんの手足を拭いていると、後から来たツアー客が、行く手を阻まれながらも、「まあ、今日は、また違うコートを着てるんやね」と話しかける。「そうなんですよ、犬の方が我々より衣装もちですよ」とおっくんに代わって笑いながら返答する。
実は、昨日も別のコートを着せていて三日間それぞれ違うものを着せているのだが、目立つものとそうでないものがあるようだ。
このコート3着と、朝夕のフード三日分とホテルの部屋の中で伏せさせておくときに敷いておくシートなど、犬に関する荷物で私のリュックはそれなりの量となる。
犬のコートについては、「あんな窮屈そうなものを毎日ファッションのように着せ替えて」と見ている人が少なくないのではないかと感じている。そんなこともあって、ツアー旅行の中では、ことあるごとに「犬の毛が少しでも周囲へ飛ばないようにするためのマナーコートです」と説明するようにしている。そうすると、「へえ、気を使ってくれたはるのやね」と、知って、はじめて理解してもらえる。
花の島礼文島は高山植物の宝庫である。車もほとんど通らない散策路をガイドの説明を聞きながら歩き出す。レブンなになに草などの名前がいくつも出てくるが目に留まって初めて名前が覚えられるもので、たんに耳から名前だけが入ってきても記憶にはほとんど残っていない。途中までは説明を聞きながら歩いていたが、とにかく寒い!両方から海が迫る場所もあって風も強い。おっくんの調子も日常に戻っていることもあり、車の通らない道ということもあって残りの15分ほどを早足で歩く。何の障害物もなく手をしっかり振って歩くのも久しぶりである。
再び、稚内へ戻ってみると、そこはまぎれもなく夏である。
おっくんにとっては初めての遠距離の旅行。腸の調子もようやく回復時期というときで、多少気がかりな中で出かけたが、結果としては無事に、そして歩きのサポートはしっかりと「グッドグッド!」である。
また、ツアーのメンバーの人達とのコミュニケーションを得るためにもおっくんの存在は大きい。
そして、三日間を通して実際に盲導犬と視覚障がい者が一緒に行動する姿を目の前にして、犬にはあまり関わってはいけないこと、視覚障がい者に対する最小限の関わり方のなにかしらは感じ取ってもらえたのではなかろうか。
同じツアー旅行会社を使っていることで、盲導犬が、視覚障がい者が、何ができ、どんなことに不自由しているかを、それなりに理解し、添乗員仲間の中でも伝えていってくれている部分があることは心強い。
これからもチャンスがあれば盲導犬と共に新たな発見を求めて出かけていきたい。